- 会山行 -

南アルプス・白峰三山

記 録:森田
期 間:2007年10月6日(土)~8日(月)
参加者:松本(CL写)、森田(SL記)、坂本(食)、小林(食)

行 程: 10月6日   相模原発2時00(松本号)~中央道相模湖IC~奈良田駐車場~奈良田5時
30(バス)~広河原6時20着→樺沢二俣→北岳肩ノ小屋・幕営
  10月7日   北岳肩ノ小屋4時00発→北岳→北岳山荘→間ノ岳→農鳥小屋→農鳥岳→大
門沢下降点→大門沢小屋・幕営
  10月8日   大門沢小屋6時00発→奈良田第一発電所→奈良田駐車場→甲府南IC
       
献 立: 10月6日夕:   カレーハンバーグ、他
  10月7日朝:
夕:
  野菜サンド、ポタージュスープ
鰻丼、高野豆腐、じゃこ入り海草サラダ、漬物、具沢山味噌汁。
  10月8日朝:   ロールパン、ハム、キュウリ、ミニトマト、ポタージュスープ、
コーヒー少量。



10月6日 (晴れ)

 午前2時。
 メンバー4人を乗せた、松本号オデッセイ。
 これより、北岳をめざし、相模原を出発である。本日までに、北岳山頂直下の肩ノ小屋まで行く、
長い1日のスタートだ。
 午前4時50分。ゴール地点となる、奈良田に車を留める。スタート地点となる広河原までは、こ
こからバスで向かうことになる。
 マイカー規制だ。直接、マイカーで乗り付けることができないのは、不便を感じる。しかし、自然を
守るため、ということと、いかにも山深いところ、という演出がされているようで、悪い気はしない。
 とはいえ、シーズン中の、登山客の多い時期。中型のバスの中に、でかいザックと一緒に、狭い
座席に押し込められ、1時間弱の道のりは、やはりつらいものがある。車内は、補助席までもが満
杯。重いザックはみな、自分のヒザの上にしか置けない。車内の換気は悪く、窓がすぐに曇った。
 広河原に到着。北岳への玄関口。この先、仙丈岳や甲斐駒ヶ岳へ行く人は、ここからさらに、別
のバスにゆられていかなければならない。
 家族連れがいた。オチビさんどもが4人、元気良くバス停より降り立つ。小学校の低学年から高
学年までそろっており、みんなフル装備でキメている。カッコいいやら、生意気やら。まあ、ちょっ
と、ほほえましいやら。この子らの両親、かなりの山好きと見える。
 満員のバスから降り立つと、極上の空気が肺に、ドッと入り込んできた。広河原で標高はすでに
1,500メートル。800メートルの奈良田よりも、高い位置にあることも一因かもしれないが、排気
ガスに汚されていない、あらゆる自然の香りが、極上の空気となって、ここにある。規模のデカイ山
域とは、こういうものなのか!と、勝手に思いこみ、一気にモチベーションが上がる。



フル装備のオチビさんたち。
 
  極上の空気。北岳の山頂が見える。一気に
モチベーションが上がる。

 

 登山口に立ち、メンバーで記念写真を撮る。すでに北岳の山頂が、ここから見える。天気は申し
分ない。7時00分、登山開始。
 大樺沢をゆっくりと登る。松本リーダーの歩調は、メンバーを気遣う、ゆったりとしたペースなので
安心だ。北岳というと、急登のイメージが強いが、沢にそって登るこのコースは、二俣まではさほど
急でもない。沢を流れ落ちる清水を見ながら、楽しんで登ってゆく。

 

大樺沢をゆっくりと。沢の流れ
を楽しみながら登った。 
 このあたりなら、まだ、皆元
気だ。

 

 9時45分、沢が大きく2つに分かれるポイントへ出た。絶好の休憩ポイント二俣に到着である。 多くの登山者が思い思いの場所で、休憩をとっている。我々もここでは、たっぷりと休憩をとるこ とにした。
 さて、ここからが本格的な急登になるのだが、二俣からは3つのコースがある。私個人として は、草スベリコースを行ってみたかった。北岳を象徴する、大変な急勾配の直登コースで有名だ からだ。でも、ここは、無難な右俣コースをとる。
 かなりの勾配を、ジグザグに登ってゆく。標高はとっくに2千メータを越え、息が苦しくなってき た。小太郎尾根の稜線が真上に見えるのだが、なかなか、そこまでたどりつけない。稜線まで出 れば、坂はようやく、ゆるくなることを知っているので、メンバーどうし、励ましあいながら登る。
 12時50分。やっとこさ、小太郎尾根にたどりつくと、そこにはすばらしい展望がまっていた。北 東を向くと、仙丈岳と甲斐駒ヶ岳。東を向くと鳳凰三山が間近に見える。この時点の私は、いず れもまだ、行ったことのない山ばかりだ。すごく行きたいのに。
 「絶対に行ってヤル、鳳凰。とくに仙丈、あんたはもう、来週にでも登るぞ!」"来週"は極端であ るが、この後の11月初めに本当に仙丈岳に登り、年末年始、本当に鳳凰三山に登ることとなっ た。えらいもんだ。
甲斐駒ヶ岳
仙丈岳

 

 さあ、ここからは稜線歩きだ。勾配もゆるやかになる。目的地は近い。雄大な眺めの中を、本日の
幕営地点まで、稜線漫歩といこう。
 と、意気こんだはいいが、ここはすでに3千メータに近い標高である。楽しい稜線歩きのはずだが、
息が苦しくってしょうがない。ここまでで、すでに6時間登り続けている。私は、メンバーの最後尾に就
かせてもらったが、目の前を歩く坂本さんも、かなりつらそうである。本日の坂本さんは、ちょっと体
調がよくないのである。前を行く、松本さん、小林さんとの距離がどんどん開いていく。
 「もう少しだから、がんばれ、坂本さん」
 ときおり、声をかける。
 へろへろになりながらも、私の声に、小さな笑顔で応えようとしている。そんな彼女を、少し遠くから
カメラで捉え、シャッターをたくさん切った。

 

- 記録係の独り言 -
 いいよねぇ、山って。山はいいよ。なんでだろうね。ちょっと考えて
みようか。やっぱりさ、簡単に行けるよりも、難しい山のほうが、心に
残るよネ。重い荷物。キツイ坂。山頂はるか遠く。その分、心に残った
風景はキラキラしてる。キツイ仕事中に、ちょっと思い出した山も、頭
の中ではキラキラしてて美しいよね。ああ、これだよ。わかった。
 きつくて、苦しくて、遠くて。だから山はいいんだ。そうに決まった。

 

背景は美しかった。ゴツゴツとした岩。どこまでも透明な大気。そんな風景の中でたった一人、山
と己に対峙している、ひたむきな人間が、たくさん撮れていた。
 13時40分、本日の幕営地、北岳肩ノ小屋に到着。
 「いやあ、お疲れさん。」
 「どうもありがとうございましたぁ!」
 お互いの健闘をたたえあう間もなく、すぐに幕営開始。なにせ、シーズン中なのである。幕営地
は結構混み合っていて、ボヤボヤしていると場所が確保できなくなりそうだ。
 ここは素晴らしい幕営地だ。標高3千メータ。日本の中では北穂の小屋に次ぐ、二番目に高いと
ころにある。高い場所であるから、本来、頭上にあるはずの雲が、我々と同じ目線に浮かんでい
る。風がこれらの雲を運ぶ。幕営地は厚い雲の中。少しすると、雲がどこかへ行き、青い空とギラ
ギラ太陽。この繰り返しである。 多くの人、色とりどりのテントが、雲にかくれ、また、あらわれる。
夢の中でないと、このような光景は、ふつう、見られない。
 ところで、バス停で見かけた、オチビさんたちは、どうしているのだろう。あたりを見回してみる
と、ああ、いた、いた。さほど離れていないところに、幕を張っている。彼らの中で一番小さな男の
子が、テントから首だけ出して、ゲロを吐いていた。小さな子には、やはり高い山はキツイでしょう
よ。
 「おえ-!」
 彼らのテントの中は、ちょっとしたパニック状態。
 こちらのテントの中は、宴会状態。

 

 ここは素晴らしい幕営地だ。
本来、頭上にあるはずの雲が、
我々と同じ目線に浮かんでいる。
 わき上がる雲が、間近に迫り、
人やテントを覆い隠してしまう。



10月7日 (快晴)

 午前3時00分起床。あたりは、まだ真っ暗。朝食はとらずに、ヘッドランプを点灯し、そそく
さとテントをたたむ。本日は、北岳・間ノ岳・農鳥岳と、文字通り白峰三山をたった1日で縦に
走りきる予定だ。
 まさに縦走。3千メートル級の山々を渡り歩き、その日のうちに、一気に大門沢まで下降す
る、豪快な稜線歩きの1日となるだろう。
 このメンバーで無理なく歩くとすると、休憩もいれて、たっぷりと12時間は要する。だから、
山行のセオリー通り、松本リーダの考えで、早だちを心掛けていたのだ。
 午前4時00分。肩ノ小屋を後にし、すぐそこにある北岳山頂をめざす。寒い。あたりは暗
闇。こういうとき、最新のLEDヘッドライトは大変心強い。広範囲を照らし出し、明るさは申し
分ない。そのうえ、消費電力が少なく、小さなバッテリーでも長時間の使用に耐える。
 「おっと...。」
 びっくりして、思わず小さな声をあげたのは私だ。
 こんな朝早く、暗いうちから行動を開始するのは、我々だけかと思っていたのに、暗闇の中
のすぐそこに、人影を見たのだ。どうもヘッドライトの電池切れで困っている様子。60歳ほど
のオッサンだった。
 見過ごすわけにもいかないので、我々の隊列の間に入れてやり、北岳山頂まで同行してあ
げることに。見れば、このオッサンのヘッドライト、旧式のものだ。豆電球タイプ。そんなもの
使っているから電池切れになるのだ。ヘッドライトはLEDに限るね。やっぱ。
 4時50分。北岳山頂に立つ。東の空がオレンジ色に輝き、太陽が昇ってくるさまを、
 東の空がオレンジ色に輝き、
太陽が昇ってくるさまを、メンバー
で心ゆくまでながめた。
あ、仙丈岳!
南アルプスが一望である
北岳山頂に到着。まだ、真っ暗だ。

 

メンバーで心ゆくまでながめた。少し長居しすぎたと思うのだが、国内第二位の高峰で、贅沢な
時間を過ごせたので、まあ、いいか。
 それまで暗くて、あたりが、どのようになっているのか、わからなかったが、明るくなるにつれ、
北岳の展望の良さ、まさに絶景であることが次第にわかってくる。
 360度の大パノラマ。南アルプス全域が浮かびあがってくる。もちろん富士山も、以外に近く、
くっきりと見える。行く手の間ノ岳・農鳥岳までの稜線が、ず~っと向こうまで続くのが見える。
 素敵な空中散歩だ。3千メータ上空を、雲を下に見ながら岩稜を下って行く。ほどなく、北岳山
荘に到着。朝食はここの、ひなたでとる。前半の食当の小林さん、店をひろげるように様々な食
材をひろげた。ロールパン、野菜、ハム、その他。仕上げはス-プ、コーヒー。
     
     全体的に白っぽい印象の間ノ岳。
     月面の山脈もかくや、といった感じ。
ああ、こんな所で贅沢な食事。小林さん、うまかっ
たゼイ。ありがとう!
 さて、エネルギー補給完了。7時10分スタート。
ゆるやかに中白根山までのぼり、いったん下がっ
てからまた、登り返すこと9時00分、間ノ岳に到
着。
 まあ、この山は何というか、全体に白っぽいのが
特徴だ。植物がほとんどなく、岩と白砂ばかりであ
る。この山をしばらく下ってから振り向くと、白っぽ
い印象がさらに強く感じられる。この方向から見る
間ノ岳は、まるで月面に降り立った宇宙飛行士
が、荒野の中に立つ、砂山を見たような、そんな
光景なのである。
 砂礫に足をとられながら下っていくと、農鳥小屋に到着。10時30分。トイレを使わせて頂き、 手洗い用の水瓶の扱い方が悪いと、きついお叱りを受けてしまったが、気を取り直し、一路、西 農鳥へ。この小屋を出るとすぐ、急な坂となる。エッチラ、オッチラと、登り切り、11時30分、山 頂に到着。
 少々疲れが出る頃だが、一気に農鳥岳へと向かう。あいかわらず素晴らしい眺めだ。
 農鳥はすぐ隣。テクテクと歩き、12時40分に到着。これまで順調にピークを踏んできたが、 我々の疲労感も、ピークに近づきつつある。どこまでも爽快だった稜線歩きも、ここまでくると、 さすがにつらさのほうが勝ってくる。
 農鳥岳を出発し、大門沢下降点へ向かう。
 大門沢下降点は、このような稜線歩きの終点といえる。ここを起点に、一気に下りになるから だ。早くここにたどりつき、大きな区切りをつけたい、と考えてしまい、この下降点を、探すように 歩くことになる。目印は黄色い鉄塔。
 緩いが、長い下りだった。
 我々以外、ひと気が全くない。黄色い鉄塔はまだか。まだ着かないのか。
 「あ、見っけ!あれ、下降点ですよね!」
 遠くの広場のような所に、ポツンと何か立っているのが見えた。いち早くこれを見つけたのは
私である。ま、要するに、この稜線歩きに区切りをつけたいと、一番願っていたのは私だったよう
で。贅沢な言い方だが、豪快な稜線歩きにも、そろそろ飽きてしまったのだ。ゴメンナサイ。
 ポツンと立っていたのは、まさに黄色のペンキで塗られた鉄塔だ。13時35分。行き先を示す
標識があちこちに向いている。シンボルである鐘が、塔の中央に吊られている。写真でよく見る、
有名な鉄塔だ。やっとお目にかかれて、光栄である。
 鉄塔の近くでみな、座り込んだ。誰も何も言わない。
 沈黙がしばらく続く。
 疲労からくる沈黙であろうが、それ以外にも、これでこの素晴らしい旅の終焉を、何となく感じた
寂しさにひたっていると、言ってもいいかもしれない。とにかく、しばらく、この鉄塔の近くで、メン
バーみんな押し黙ったまま、座り込んでいた。
 「それじゃ、そろそろ行きますか」
 松本リーダーのひと声で、メンバー元気良く立ち上がった。
 素晴らしかった稜線歩きに別れを告げ、大門沢を下っていく。明日の行程を考え、大門沢小屋
まで一気に駆け下りなければならない。
 かなり急な下り坂である。みるみるうちに、標高が下がっていく。
 森林限界から、あっという間に樹林帯へつっこむ。
 大門沢小屋が、遙か遠くに感じた。すでに、足が棒になっている。
 16時25分、大門沢小屋に到着。小屋の屋根が見えたときには、心底うれしかった。もう、ばて
ばてだったから。



10月8日 (雨)

 昨晩は、坂本さんが後半の食当だ。お得意の鰻丼をご馳になる。明けて朝。テントの外からは、
しとしという音がしてくる。昨晩から雨模様だったが、回復する気配がない。強く降るような雨では
ないが、どうやら今日1日降るつもりらしい。
 午前4時00分起床。ロールパンにハムはさんで。スープと
コーヒー。本日は帰るだけなので、朝食はゆったりと摂る。
ただいまの時刻、6時45分。大門沢小屋を後にする。
 長い下り。昨日までの疲労感が、足に残り、少々つらい
が、気持ちははればれとしている。あいにくの雨模様ではあ
るが、かえって、幻想的な風景をかもしだし、これもよし。

 10時20分、奈良田着。豪快な稜線歩きを満喫した旅であった。松本さんの綿密な計画で、なん
の不安もなく、この旅を楽しむことができました。松本さん、ご苦労様でした。メンバーのみなさん、
お疲れさまでした。
 最後に、温泉にゆっくりつかり、相模原へ帰ったことは言うまでもない。