戸隠連峰 西岳に登る


記  録 :川野
期 日 :2007年10月27(土)雨~28日(日) 晴 
メンバー:貴堂(L)、川野、森田

 今年は同じメンバーで春に表妙義縦走を今秋は戸隠西岳に登る。
先ず、戸隠連峰とは、北から乙妻・高妻の裏山、五地蔵岳・戸隠山の表山それに本院岳・西岳などの西岳連峰、これ
等三つのブロックが弓なりに連なった20km近い連峰である。戸隠表山でも峨々として連なる岩塊で東面は鋭い懸崖絶
壁と表現されている。更に、鋸状の岩稜が連なり戸隠高原から荒々しい山容を仰ぎみると険しくて近寄りがたく登ること
ができるのかと不安になるのが西岳である。(以上ガイドブック等の表現を引用した)
突然の台風20号発生にもめげず雨のなかを出発した。長野ICから市内を抜け、戸隠そばを食って宝光社から鏡池に
立ち寄る。紅葉真っ盛り、池の奥には戸隠西岳の鋸状岩稜が霧に包まれ幽玄な情景をみせていた。周辺には雨でも
観光客が大勢いた。登山口方面の下見をして戸隠キャンプ場にいく。幕代は3人以上で\2,000と駐車料\1,000、そこで
貴堂さんの女性受付嬢への対応がよかったか、ウインクが効いたのか、雨で大変ですねー・・思案のあげくバンガロー
を使っても良いよときた。5人用小型バンガローに入る幸運を得た。食当貴堂さんの丹精込めた豪華な寄せ鍋で、ビー
ルに始まってアツ燗に焼酎ときてドンチャン騒ぎと・・・まではいかないが想像にお任せだー 強い雨の音を聞きながら
20時に寝た。雨は夜半まで降り続いた。


 翌朝4時起床、十六夜の月が煌々と輝いて風も無く絶好の登山日和となってくれた様だ。鏡池駐車場を5時に出発。
楠川林道からいきなり約200m下って楠川登山口からの道を合わせて直ぐ3箇所の渡渉となる。一昨日来の雨で増水
し1箇所は靴を脱ぐはめになった。水が冷たく足が痺れた。雑木林の急な道を登っていると貴堂・森田さんの「熊だー、
クマダー」の声で左後上方向を見上げた。小生はバサッと笹が揺れて後ろ姿を垣間見たような気がしたのだが・・怖く
はあるが野生の熊は確りと見たかった。二人ははっきりと目撃したという。登りきると、天狗原の青々とした牧草地に飛
び出す。突如前方が開けて姿を現した戸隠西岳の岩稜は圧巻で一斉に声を上げた。一本の白樺を前景にブナ、白
樺、その他の落葉樹の紅葉帯があり、その上に連なる鋸状の岩峰がコバルトブルーの空にスカイラインを描き、そして
P1(弁慶岳)の左上に十六夜の月が浮かんでいた。


 木漏れ日を浴びながらブナ、ミズナラ、シラカバの樹林帯の中を新しい色とりどりの落ち葉を踏みしめて緩やかに気
持ちよく登っていく。徐々に急な道となり最初のクサリ場にでる。ここからが核心部となっていく・・・トラバースして垂直、
足がかりは乏しいがボルトに助けられる。木の根や笹に掴まりながら登り、熊の遊場につく、右に左にクサリの連続で
岩壁をトラバースぎみに登り最後直登して無念ノ峰へ辿りつく。ややオーバーハングした壁をクサリでトラバースしてハ
シゴに手をかけて下り、蟻の戸渡りの痩せ尾根を経て垂直に近い20mのクサリ場を攀じ登って不帰の峰を越え、更に
10m余の垂壁などクサリの連続があり、草付きの急傾斜を根、笹を使って喘ぎながらP1に着いた。この間、緊張感は
あったが、本院岳や西岳の裾に黄金色の絨毯を敷き詰めた岩壁がぐんぐんと迫ってきて圧倒され続け、振り返れば天
狗原や鏡池そして錦秋の高原を望むことができ心は弾んで満足感一杯であった。そしてP1では、西側に新雪を被った
朝日岳、白馬三山から五竜、鹿島槍の山々が眺められ直ぐ目の前にはピラミダルな本院岳・西岳が断崖を伴って聳え
ていた。しかし、2千米級の標高なので槍・穂高のような岩塊ではなく、潅木や笹に覆われている。


 西岳までは30分で岩場や鎖場はなく稜線漫歩であった。しかし、ここから西岳キレットへの下りが厳しかった。最初は
ヌルヌルの急斜面、笹を掴みながら後ろ向き下降し、垂直に近い30mの鎖場であった。かなり腕力を使う場面であるし
緊張感は大きい。クサリ場もさることながら、急斜面の笹薮の道も一昨日来の雨で土が緩み滑って非常に危険を感じ
た。誤って大きく滑れば奈落の底だ。むしろクサリ場より恐ろしいのだ。此処で逆コースの単独者、2人と3人パーティ
に出会った。滑り易い笹道を一旦下り、上り返して最後鎖場を過ぎると本院岳へ着いた。眺望は360度で素晴らしい。
振り返る西岳は南側の断崖とキレットが荒々しく厳しい。北アルプス、頚城アルプスの雨飾山、火打山、妙高山に乙妻・
高妻山、黒姫山等が見渡せ、南東に広がる裾の黄金色の絨毯の向こうに飯綱山が端整な姿で佇んでいる。崩壊地の
傍や倒木、岩塊の隙間、ぬかるむ道、数箇所のくさり場を経て最低鞍部に下り、一本立て眼下の素晴らしい戸隠高原
や本院岳を仰ぎみて休む。登り返して八方睨に着いて安堵する。高妻山が眼前にドッシリと構えている。展望も良く、頚
城アは勿論、浅間山、八ヶ岳、南ア、北ア連峰槍ヶ岳の穂先も確認できた。目の前に飯綱山、富士山はさすがに霞ん
で見えなかった。西岳岩稜を踏破した満足感と穏やかな大展望、何と言う心地良さだろう。


下山開始は14時20分となる。さて最終の八方睨コースだ、気を引き締めて行こうと声を掛け合って垂直チムニーの鎖
に取り付く。ガレの斜面そしてハイライトの蟻の戸渡りだ。先ず、剣ノ刃渡り、下りぎみなので慎重に手を掛けて最後は
立って渡る、次ぎが幅50cm、20mの塔渡で両側はスパッと切れ落ちている。もう十分疲れた脚の老輩では無理?・・・フ
リーで歩くのは一般人には厳しい。跨ぐというか這いつくばっていけば何とかなりそうだが??貴堂さんからも声がかか
り断念、東側直下に掛けられたクサリに取り付き絶壁をトラバースして抜けた。


ここからまた、胸突き岩(斜度約70度、3mトラバース、15mの下降)見返り岩、天狗ノ露地、西窟と続くクサリの連続で、
別に怖くはないが本当に多く山形、宮城を越えて秋田(厭きた)だ、もうウンザリ!百軒長屋、五十軒長屋を通って戸隠
奥社へ降り立った。既に16時20分となっていたが観光客の喧騒の中に入る。お手水所でアルミ製の柄杓で水を2杯ゴ
ックンとやり、しばし休憩し、杉並木を歩き、随神門から森林植物園の外周の道を通って鏡池の駐車場に戻った。時は
17時、なんと予定(10時間)を大幅にオーバーして12時間を経過していた。途中夕食、一部渋滞に巻き込まれながら上
信越・関越道経由で相模原へ一直線、帰宅は23時となる。全く妙義山に匹敵する難度であったのである。山路の諸
君、来年挑戦してみては如何でしょうか・・・